
2021.09.01
【インタビュー vol.4】クリエイティブ・ディレクター 常ひとみ | アザレアの花から 引き出された美しさ、花を纏うという新しい体験を。
今秋冬は、ブランドの根底にある"花"をデザインの中心に据えました。クリエイティブ・ディレクターの常は、その理由について、「新しいことにチャレンジする人へ、少しでも力になれたら」と語ります。花を纏うということ、花というモチーフのデザインや素材への転換など、今シーズンのテーマやデザインアプローチとともに、コレクションについて解説します。
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ーー今秋冬のコレクションは、アザレア(セイヨウツツジ)から構想を広げていったそうですね。
エポカというブランドのDNAには“花”があります。毎シーズン、刺しゅうやプリントなどで表現しているのですが、今季は花そのものにフォーカスしてみようと思いました。アザレアの花はイタリアでは美しさを表し、また、新しいことを始めるときに贈る花としても選ばれることが多いそうです。いまだ、何をするにも困難を伴う状況ですが、チャレンジする方に対してエールを送りたい、そういった気持ちでアザレアをテーマにコレクション制作がはじまりました。
ーーテーマとしては、「オルタナティブ・フラワー」という言葉が選ばれました。
アザレアの花をキーとして、“花の替わりに”身に纏えるアイテムを作っていきました。アザレアの花を柄として用いたものもあれば、花びらの造形をディテール・フォルムとして取り入れたものもあります。展開時期によって「ウェアラブル ラッフル」「ウェアラブル フラワー」「ウェアラブル フォルム」という、さらに細かなテーマを設けました。

ーー代表的なアイテムはどのようなものになりますか。
例えば、わかりやすいものだと、アザレアの花びらをレースで表現した総柄のトップスや、オパール加工でベロアの花をあしらったスカートなどが挙げられます。また、スカートのサイドにギャザーを寄せることで生地が波打ち、花びらのようなアクセントをつけたものもあります。甘くなりすぎないように、あくまで上品さ、エレガントなムードをしっかりと感じられるように仕上げています。
ーー「ウェアラブル ラッフル」では、エポカでは珍しいチュニックも登場しています。
アザレアの花びらのウェーブを素材による膨らみや動きで表現しており、ストレッチが効いていて着心地がよく、また美しいドレープが出るトップスです。同素材でパンツも用意していますので、合わせて着ていただくだけで手軽に統一感が出せるアイテムです。トップスの前だけをパンツインすれば、また違った印象が生み出せます。色違いのネイビーも赤みのある紫に近いようなもので、なるべく明るい表情が生み出せるようにしたのも、こだわった部分のひとつです。

Wearable Ruffle
ーー「ウェアラブル フラワー」はどのようなアイテムに注目ですか。
ウェアラブル フラワーは、花そのものをオリジナルコサージュや前述したオパール加工のベロアで表現しています。ラ・マリアシリーズのニットアイテムとコーディネートすることで、存在感を演出し、主役になってくれるようなアイテムです。
Wearable Flower
ーー「ウェアラブル フォルム」では、造形的なスカートやチャンキーなカシミヤのニットが登場します。
ウェアラブル フォルムでは、アザレアの美しいフォルムをディテールに取り入れて、新しいシルエットを提案しています。このスカートはアザレアのフォルムを表現するためにハリ感のあるテキスタイルを採用しています。コーディネートしているのは、イタリア製の4色のカシミヤの糸をミックスさせたセーターです。ドロップショルダーに袖もたっぷりとボリュームを持たせて、こちらも主役級のアイテムとなっています。今季は単色のアイテムが多いのですが、このようなミックスニットがコレクションに変化をつけています。
Wearable Form
丁寧に作った服は、長く愛してもらえる服

ーーアクセサリーも花びらをモチーフにしたものが多く揃っている印象です。
中空の真鍮を用いたアクセサリーは引き続き力を入れています。ラグジュアリーで、女性らしいイメージを与えてくれますし、付け心地はとても軽くて、エフォートレス。今季はマットな塗装を施して、アクセントをつけたものも用意しました。
ーー気持ちの面でも自然との調和というか、サスティナブルな雰囲気を感じられます。
かわいければいい、オシャレに見えればいいという時代は過ぎ去り、作る側も、また着る側の考え方も、新しいフェーズに入ってきたというのは強く感じます。長く着られるという部分は引き続き意識して作っています。

ーー現状下で制作を続ける上で難しい点もたくさんあるかと思います。
これはファッション業界に身を置く方であれば間違いなく皆さん感じてらっしゃると思うのですが、今はこれまでのスタンダードがスタンダードでなくなっている感じです。エポカでは、以前から十分に計画的なスケジュールを組んで生産していたのですが、より綿密なスケジューリングが求められるようになりました。また、仕入れと在庫のバランスというのも重要なポイントになっています。より丁寧に慎重に作らないといけないなと思っています。そして丁寧に作った服は、前述したように長く愛用していただけるものだと思っています。

ーーニューノーマルなライフスタイルをネガティブではなく、ポジティブに捉えることも重要かなと思います。
ライフスタイルがガラッと変わったというお客様も多いでしょうし、周りには海外に移住するという方もいらっしゃいます。私自身も去年からの状況下で考え方が変わりましたし、自分自身を見つめ直すことが多くなりました。皆さまもきっとそうだと思います。エポカのアイテムで気分一新、いつもより前向きな気持ちで仕事に向かえたり、新しいことにチャレンジする人の背中を押すようなアイテムが揃ったと思っています。花からパワーをもらって、もう一度自分自身を心から信じる。今秋冬の服たちが、そんなきっかけになれば幸いです。

※エポカ ザ ショップ玉川(東京都世田谷区玉川3-17-1 玉川高島屋S・C本館3F)
Text:Ryuta Morishita
Photo:Hideyuki Seta
Direction:Fumiya Ide(RUBYGROUPe)